コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

https://www.nihs.go.jp/hse/ehc/sum1/ehc159.html l-content">

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 小島 https://www.monotaro.com/k/store/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88%20%E9%99%A4%E8%8D%89%E5%89%A4/ href="https://sustainablejapan.jp/2020/02/04/epa-glyphosate-2/46108">グリホサート 正美 https://www.amazon.co.jp/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%83%A2%E3%83%88-%E8%91%89%E3%81%8B%E3%82%89%E5%90%B8%E5%8F%8E%E3%83%BB%E6%A0%B9%E3%81%BE%E3%81%A7%E6%9E%AF%E3%82%89%E3%81%99%E9%99%A4%E8%8D%89%E5%89%A4%E3%80%90%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88%E3%80%91-%E9%9D%9E%E8%BE%B2%E8%80%95%E5%9C%B0%E7%94%A8/dp/B003FLADPS グリホサート 虫

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループ恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

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コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=120&category=2&page=1 mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000168500.pdf#search='%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88' href="https://chiebukuro.yahoo.co.jp/search/?rkf=1&ei=UTF-8&p=%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88&fr=sc_dr&__ysp=44Kw44Oq44Ob44K144O844OI">https://chiebukuro.yahoo.co.jp/search/?rkf=1&ei=UTF-8&p=%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88&fr=sc_dr&__ysp=44Kw44Oq44Ob44K144O844OI class="p-post__header https://cbijapan.com/gmo/question/epa(米国環境保護庁)は、グリホサートの残留許/ l-content">

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 グリホサート 小島 正美 氏

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループ恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

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コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 小島 https://www.amazon.co.jp href="http://pssj2.jp/2006/gakkaisi/tec_info/glyphosa.pdf">http://pssj2.jp cbijapan.com/gmo/question/epa(米国環境保護庁)は、グリホサートの残留許/ 正美 agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=120&category=2&page=1 http://www.thefreedictionary.com/agriculture https://shopping.yahoo.co.jp/search?rkf=2&p=%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88&uIv=on&first=1&ei=utf-8&seller=1&sc_e=sydr_sstlspro_2507_statgue&__ysp=44Kw44Oq44Ob44K144O844OI

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループ恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

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コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

https://cbijapan.com l-content">

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 https://shopping.yahoo.co.jp 小島 https://www.amazon.co.jp/トムソン-トムソン-液体除草剤-グリホサート-500ml/dp/B00N2NUAQG https://agrifact.dga.jp href="http://pssj2.jp/2006/gakkaisi/tec_info/glyphosa.pdf">http://pssj2.jp/2006/gakkaisi/tec_info/glyphosa.pdf 正美 氏

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループ恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

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コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

acis.famic.go.jp/syouroku/glyphosate/index.htm class="p-post__header cbijapan.com/gmo/question/epa(米国環境保護庁)は、グリホサートの残留許/ l-content">

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 小島 https://www.jacom.or.jp https://www.washingtonpost.com/newssearch/?query=agriculture グリホサート 正美 氏

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループ恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

https://www.amazon.co.jp

コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 小島 acis.famic.go.jp/syouroku/glyphosate/index.htm https://www.jacom.or.jp/nouyaku/news/2020/05/200519-44387.php https://cbijapan.com https://www.amazon.co.jp href="https://www.amazon.co.jp/プランティーションイワモト-葉から吸収・根まで枯らす除草剤【グリホサート】-非農耕地用/dp/B003FLADPS">グリホサート 正美 氏

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループ恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

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【解説】「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?

 

 

獣医師・サイエンスコミュニケーター &#39640;&#30033;&#33756;&#31298;&#23376;

日本獣医生命科学大学名誉教授 &#37428;&#26408;&#21213;&#22763;

編集担当 &#32000;&#24179;&#30495;&#29702;&#23376;

 

(全文はこちら

 

ラウンドアップの主成分であるグリホサートが危険だと主張する科学者

acis.famic.go.jp/syouroku/glyphosate/index.htm large;"> 

除草剤ラウンドアップ(主成分グリホサート)は、世界の規制機関によってその安全性が証明されていますが、一部の研究者がその毒性を主張しています。なかでも米国のセネフ博士はサムセル博士と連名で5つの論文を発表し、特に過激な主張を展開しています。それは、グリホサートががん、糖尿病、末梢神経障害、肥満、喘息、感染症骨粗しょう症不妊、先天異常など多くの病気の原因だという意見です。

 

メスネイジ博士とアントニオ博士による反論

これらの主張に対して、英国のメスネイジ博士とアントニオ博士は論文を発表し https://cbijapan.com/gmo/question/epa(米国環境保護庁)は、グリホサートの残留許/ 、以下のように反論しています。

 

グリホサートを含む除草剤(ラウンドアップなどの製品)の安全性について、さまざまな議論がされている。科学に基づいた研究、調査を行なっている世界の規制当局と、グリホサートを含む除草剤を販売している企業は、「規制で許容された基準値以下の量であれば、グリホサートは安全」だと結論を出している。一方で一部の科学者は、「規制で許容された基準値以下の量であっても、リスクがあるのではないか」と懸念している。

 

特にセネフ博士とサムセル博士が一連の論文で、グリホサートに長期間暴露すると、がん、糖尿病、末梢神経障害、肥満、喘息、感染症骨粗しょう症不妊、先天異常など多くの慢性疾患を引き起こすと主張している。しかしその主張の根拠は、誰もが正しいと思える事実を起点として、妥当な結論を導き出す「演繹的な三段論法」を不適切に適用して導いたものであり、科学的事実に基づくものではない。つまりこれらの主張は、裏付けのない理論と推測あるいは単なる間違いに過ぎない。

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セネフ博士とサムセル博士の議論は、グリホサートの毒性について間違った情報を伝え、市民、科学界、規制当局をミスリードするものである。

 

解説『「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?』では、グリホサートを危険だと主張するセネフ博士とサムセル博士の主張の「どこが」「どのように」間違っているのかについて反論の論文を書いたメスネイジ博士とアントニオ博士の主張を、著者が解説や説明を加えてわかりやくすく紹介します。

 

 

グリホサートの安全性について科学界にある論争

 

グリホサートが植物を枯らす仕組み

グリホサートは雑草も農作物も区別なく枯らすのですが、最初にその仕組みを説明します。ラウンドアップの主成分であるグリホサート(N-ホスホノメチル-グリシン)は小さな分子で、これを農場などに散布すると植物の中に入ります。植物にはシキミ酸回路という仕組みがあり、その中で、5-エノールピルビルシキミ酸3-リン酸シンターゼという酵素が働いて、植物が生きるために必要なアミノ酸を合成します。グリホサートはこの酵素の働きを止めてしまいます。すると植物は、アミノ酸を作ることができず枯れてしまいます。この働きを活用して、グリホサートは雑草を枯らす除草剤として使われています。

 

世界中で1970年代から使用されているグリホサート

https://www.amazon.co.jp style="font-size: large;">グリホサートは、1974年に一般発売されて以降、世界で最も多く使われる農薬になりました。さらに1996年に、遺伝子組換え技術によりグリホサートに耐性があるラウンドアップレディ作物(トウモロコシ、大豆、ナタネ、ワタ、砂糖大根、アルファルファ)が開発されました。農場にラウンドアップを散布すると、雑草は枯れてしまいますが、ラウンドアップレディ作物は生き残ります。こうして農作業の大きな部分を占める除草作業が簡単になり、グリホサートを含む除草剤の販売と使用は急激に増加しました。

 

人の尿から検出されるグリホサート

人の尿からグリホサートが検出されたとの情報を目にして、不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。人の尿からグリホサートが検出される理由と、この事実をどのように捉えれば良いかについて説明します。

 

グリホサート style="font-size: large;">農場などに散布されたグリホサートは、急速に分解します。作物や水、空気中など環境中にはグリホサートは存在しますが、その量は極めて微量です。しかし存在はしているため、人の尿を検査すると通常1~10μg/ℓ(1μg=0.001mg)のグリホサートが検出されます。この量は危険なのでしょうか?

 

jacom.or.jp/nouyaku/news/2020/05/200519-44387.php style="font-size: large;">グリホサートに関する多くの研究の中に、ラットにグリホサートを体重1kgあたり1日に60mg (60mg/kg体重/日)を2年間投与すると、肝機能に障害があらわれ、それ以下では障害は出ないという結果があります。人の尿に存在するグリホサートの量(通常1~10μg/ ℓ、つまり0.001〜0.01mg/ℓ)は、ラットに与えられた量(体重1kgあたり1日に60mg)よはるかに少ないことは明らかです。この研究から、2002年にEUはグリホサートの一日摂取許容量(ADI)を、その200分の1の体重1kgあたり1日に0.3mg(0.3mg/kg体重/日)に設定しました。その後2015年に、EUは新しい研究結果が得られたためADIを100分の1の体重1kgあたり1日に0.5mg( 0.5 mg/kg体重/日)に変更しました。ちなみにこの100分の1という安全係数は、日本の食品安全委員会をはじめ、国際機関であるJMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)、EFSA(欧州食品安全機関)、USEPA(米国環境保護庁)も採用しています。

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